• こころ館研究員

「とよのわたし研究室」研究テーマ発表会

最終更新: 2019年3月9日



 大阪府北部に位置する自然豊かな山間のまち豊能町にて、平成30年10月〜翌1月まで実施されたこころ館の地域活性プログラム「とよのわたし研究室」。先日2月2日(土)、わたし研究に参加した14名の研究生による、これからのわたしらしい生き方「研究テーマ」の発表がありました。当日は地域住民の皆さんや地元企業関係者に豊能町役場職員の皆さん、またこころ館にゆかりのある大学関係者や企業関係者など名近くが会場に集まり、研究生にエールを送りました。

 今回は、そんな発表会の様子を前田がレポートします。



 オープニング映像を視聴後、豊能町生活福祉部住民人権課・浅海さんの和やかな進行の中、発表会は幕を開けました。まずは浅海さんによる豊能町の状況についてのお話からスタートします。



浅海さん:豊能町の現在人口は19,694人、高齢化率は43.8%(H30.12.31)。合計特殊出産率は0.82%と平成22年には全国ワースト3位となり、ピーク時26,617人(平成7年)から平成52年には12,275人にまで減少すると予測されています(「豊能町人口ビジョン」)。


 そんな状況のなか、豊能町では「豊能町まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、2017年度から様々な地域ぐるみでの取り組みがスタートしました。まず、地域の人々によってまちの魅力を再発見するワークショップが行われ、「曲がりくねって、ただいま。」というブランドメッセージが生まれました。さらに、住民51名が「トヨノノレポーター」となって地域の魅力を発信し、それらをまとめたポータルサイト「トヨノノPORTAL」の運営も住民の方々と一緒になって進めています。





 しかし、当時の町長のマニフェストの一つでもあった、女性活躍やそのために必要な事業については悩んでいました。住民の夢を叶えるための提案事業だけではなく、もっと本質的な取り組みはできないだろうかと考えていた矢先、「のせでんアートライン」で生まれたご縁から、女性が本質から自分らしく生きるためのプログラムを手がけておられるこころ館さんと出会いました。


 「とよのわたし研究室」のコンセプトである「わたしが変われば、地域が変わる。」は、新たな地域活性化のプログラムとして、こころ館の松原さんから提案された言葉でした。これを前町長に説明したところ、「とてもいい言葉だ」と高く評価していたのを覚えています。


 わたしは、住民の方の中には、内省を深めることでもっと自分らしく地域で暮らせるようになる方もおられるだろうと考え、そういった方に向けた人材育成事業が必要であると感じ、2018年3月の「ふれあいフォーラム」にて「わたしらしく生きるには」という題目で講演を依頼しました。





それが好評だったこともあり、2018年度に「とよのわたし研究室」として一般公募を行いました。住民の皆さんと一緒に役場の職員も研究生として参加する、これまでにない取り組みとして、合計14名の小さな研究室が生まれました。


 この事業には、ブランドメッセージにある「自分らしさを見つけたり取り戻したりする人がいる」を実現できるという期待もありました。そしてわたし研究を終えた研究生の皆さんには、その期待をはるかに上回る自分らしさが生まれていると感じます。


 本日は、ゲストメッセンジャーの皆さまから、研究生の皆さんに暖かい応援やメッセージをいただけると幸いです。また、研究生の中から新しいプロジェクトが生まれるよう、アドバイスやご意見を頂戴できればと思います。

浅海さんのお話の後は、ゲストメッセンジャーのご紹介です。今回の発表のために、豊能町やこころ館にゆかりのある9名の皆さんをコメンテーターとしてお迎えしました。

<ゲストメッセンジャーの皆さま(敬称略)>

●今里 滋(同志社大学大学院 総合政策科学研究科 ソーシャル・イノベーションコース 教授)

●甲斐 健(クリエイティブディレクター)

●園田 裕紹(豊悠福祉会 理事長)

●中島 智彦(能勢電鉄株式会社 取締役総務部長)

●三浦 卓也(株式会社フェリシモ F.B.I.プロジェクト オペレーションリーダー/北海道厚真町産業経済課 地域おこし企業人/株式会社hope for取締役)

●今出 貴裕(株式会社ヒューマンフォーラム mumokuteki事業部事業部長)

●佐野 淳也(同志社大学大学院 総合政策科学研究科 ソーシャル・イノベーションコース 准教授)

●森田直美(会社員/一般社団法人こころ館 わたし研究員1期生)


 そしてここからは進行をこころ館が担当し、「とよのわたし研究室」についての簡単な説明をさせていただきました。

松原(こころ館):「とよのわたし研究室」は「何かしたいけれど何をすればよいかわからない」、「もっともっと成長したい」と思っている豊能町で子育て経験がある女性を対象としたプログラムです。こころ館では「わたし」を探求することにより、潜在する力や才能を創発させ、自分らしさを発揮する内面からイノベーションを起こす人材育成を行なってきました。自分らしくよりよく生きる力が備わった人を育てることで、周りの人や社会を発展させることを目指すのが、こころ館のプログラムです。


とよのわたし研究室では、次の3ステップでプログラムを進めていきました。


1.「わたし」について研究する。

2.研究テーマ=これからの私らしい生き方(Misson)を見つける。

3.「わたし」をよりよく生きることで、人や地域をよくする。

 実際にプログラムを受けた皆さんにはどのような変化があったのか?会場では「とよのわたし研究室」の様子をまとめた映像をご覧いただきました。


 映像視聴後、フェリシモの三浦さんからは「皆さんのお顔や表情が、どんどん変わっていく様子が見えて、個人が変わらないと地域が変わらないんだ、という原点のようなものを見せてもらえたような気がします」といった感想


 そしてここからは、研究生の発表です。発表は「講座を受ける前のわたし」「講座の中でのわたし」「研究テーマ」についてお話されました。ここでは2名の研究生の方の発表についてご紹介したいと思います。

三好麻理子さん(研究員):主人の実家のある豊能町に越してきてちょうど10年。ママ友や趣味仲間、仕事にも恵まれ、何より家族もみんな元気。私には充分過ぎるくらい幸せな生活をさせてもらっていました。でも、ふと将来への不安を感じたり、自分自身に自信がなかったり……だからと言って何をしたいのかもわからず、もやもやした気持ちで日々過ごしていました。そんな時に、豊能町の広報誌に入っていた『とよのわたし研究室』のチラシに目が止まりました。

  わたし研究の中では、気づかされることがたくさんありました。『親との関係性』を振り返るワークでは、今の自分があるのは“両親をはじめとする家族のお陰であることをはっきりと自覚することができました。私は、山形の農家の家に生まれ、質素な田舎暮らしの中で育ちました。家に帰れば家族がいて、食事も家族みんなで食べて……そんな当たり前の日常が、私の心の安定につながっていたことに気づき、今まで以上に深い感謝の気持ちが溢れてきました。これまで私は“自分が良ければそれでいい”と思って過ごしていましたが、この研究をする中でもっと周りの人の事を考えてみたい!と思うようになっていました。




 豊能町は、現在人口が少しずつ減ってきているそうです。そうなると、人間関係も固定されて、自由に身動きが取れないままの生活を余儀なくされてしまうのではないかと心配です。だからこそ、この町で暮らす私たち自身が“自分らしく生きる”ことが大切なんだと思うようになりました。

 そんな私の研究テーマは

「とよので暮らす人たちのしあわせサポーター」です。

 私自身が自分らしく生きることで、自分を大切にできる人を増やして、豊能町のみんなが幸せに暮らしていける手助けをすることができればと今は思っています。大人だけでなく子どもたちも、将来のびのびと力強く、自分に自信をもって、本当の笑顔でいてほしいです。いろんな人の協力を得ながら、たくさんの人を少しでもあたたかい気持ちにすることが出来たら、私もきっと幸せです。

 まずは、家族がいつも笑顔であるように!

 小さなことからコツコツと頑張って行きます。



滝本弥生さん(研究生):今までの私は、日々なんとなく時間が流れ、当たり前のことを、当たり前にこなしていました。 家では、朝・晩のご飯を用意し、子供のお弁当作り、掃除、洗濯といった、いわゆる「お母さんのすること」をこなす毎日でした。 仕事でも、与えられた業務をこなし、周りを乱すことを避けてきたように思います。つかず離れず、ほどよい距離を保ちながら人間関係を築いてきたと思います。

 今回「とよのわたし研究室」を受講して感じたことは、自分のことは自分自身が一番分かっているつもりでしたが、全然分かっていない別の自分がいたと言うことです。そして今現在、なんの不満もなく幸せだと思っていた毎日が「本当にそうなのか?」と自問自答する機会をもらえたことです。



 この講座では毎回、最初と最後に「チェックイン/チェックアウト」の時間がありました。そのとき心に浮かんだことをみんなの前で順番に話すのですが、これが、自分の気づいていない自分に気づくことができる瞬間でした。周りの方から「そうだね」と背中を押していただける肯定の空気や、雰囲気によって、よりリラックス出来たのだと思います。  受講をしてからは、ふと日常のなかで自分を俯瞰的に見る時間をもつことができるようなってきました。家や職場で、「あれもしないと」「これもしないと」といっぱいいっぱいで、”やらないといけないマジック”にかかり、自分を追い詰め、結果何も出来ずしんどいなと思う時が多々あります。そんなとき、一息ついて、自分や周りを見つめると、冷静に判断することできました。ちょっとした気持ちの持ち方で、毎日が楽しくもなり、苦しくもなるのだということを感じることができたと思います。



 そんな私の研究テーマは「『やってみたい』を応援する場づくり」です。

 私は豊能町でたくさんの人に出会い、支えていただきました。私自身も昔から、トップに立つより副委員長・副部長のようなサポートする側の役割が多かったので、人の役に立てることなら出来るかもしれないと思うようになりました。

 私は普段、町内の福祉法人に勤務しています。そして、このタイミング!!というナイスタイミングで、今年の夏、町内に高齢者・障がい者施設に併設する形の地域交流スペースが出来ます。そこで、このスペースを活用して、地域みなさんや「とよのわたし研究室」で一緒に学んだ研究生の方々のやってみたいことや「どうにかしたいけどできない」などという思いなどに共感し、地域で暮らす人たちのオアシスになるような、「なんでも相談窓口」のような場をつくりたいと思います。

 皆さんの第一歩を応援する場をつくっていきたいです。


 

どの研究生も、それぞれのわたし研究の軌跡が伝わってくる、等身大で飾らない発表でした。発表に影響を受けてか、ゲストメッセンジャーからいただいたコメントの中には、普段は口にしないであろうご自身の中に眠っていた想いを正直に話されている場面も多々ありました。


このように、こころ館のプログラムでは、発表を聴いていた参加者が自分自身の気持ちやストーリーを自然に口にされることがよくあります。自分と向き合い、正直な気持ちを伝える研究生たちの発表は、それを聴いている側の気持ちもオープンにしてくれるようです。

 また、会場ではひとりひとりの研究生に向けて、付箋に感想やメッセージを書いていただきました。丁寧にそれぞれの感想を書いてくださり、会場は共感や応援の声でいっぱいになりました。



 発表は続きます。いつしか仲間となった研究生たち。その仲間に見守られながらの発表は、緊張しつつも安心感があるように見えました。


 すべての研究生の発表が終了した後は「修了式」がスタート。豊能町長職務代理・乾副町長から修了証書を手渡され、研究生から「とよのわたし研究員」に認定されました。


 オリジナルピンバッチは「とよのわたし研究員」の証です。


 最後に全体の総括として、同志社大学の今里先生から「わたし研究室」を発酵が起きる場にたとえた面白いコメントを伺いました。


 先生曰く、この場には3つの”発酵要素”があったといいます。

  ①自分を知る:ホンモノの自分(アイデンティティ)を発見できる。

  ②共感:ひとに対して素直に反応できる、自分の感情に正直になれる。

  ③利他:ひとが幸せになることによって、自分が幸せになる。幸せの循環。

 こころ館の「わたし研究」が酵母菌の役割を果たし、この3つの要素が働いたことでよりその人らしさが”発酵”する。そんなぬかどこのような場所が「とよのわたし研究室」ではないかと今里先生からお言葉をいただきました。


 その人らしさが発酵することで、周りの人の”らしさ”も発酵されてゆく。そして気がつけば豊能町が自分らしさを持った人がいっぱいの町に成長している。そんな、発酵型のまちづくりモデルが広がっていくのだと実感しました。

 こころ館代表の松原は、同志社大学大学院の今里先生のゼミで「個人の内発的発展から地域イノベーションを起こす」という実践理論の構築に取り組んでいます。自分とつながり満たされた人からはエネルギーがあふれ、社会に解放されていく。その影響力は周りの人の内発的発展にも影響を与えていくのかもしれません。





 豊能町で実施された「とよのわたし研究室」は、ある担当職員さんが本気でこのプログラムに取り組みたいという熱い思いをもち、率先して運営に取り組まれました。それだけでなく、このプログラムに関わりたいという有志職員さんによるワーキンググループも立ち上がりました(詳しくはこちら)。見えないところに職員さんたちの本気の働きがあり、また研究員の皆さんに職員さんが寄り添われていたからこそ、安心で安全な、思いやりあるコミュニティが生まれたのだと思います。

 発表会では、「豊能町の職員さんがこんな方々がおられるとは知らなかった。わたしで、何かお手伝いできることがあれば是非お手伝いさせてほしい」といった発言もあり、行政/住民という垣根を超えた関係がこれから始まるのだという予感がしました。


 

研究員の皆さんのゆるやかな展開に寄り添いながら、この町の広がりをこころ館全員で応援し一緒に進めていきたいと思います。

 今後とも、「とよのわたし研究室」をどうぞよろしくお願いします。

◆とよのわたし研究室

第1回 第2回 第3回 第4回/第5回

◆豊能町ホームページ

http://www.town.toyono.osaka.jp/

▼トヨノノPORTAL

https://toyonono-portal.jp/


【今回の記事を書いた人】

 前田 展広

 デザイン教育機関での産学連携や全国の校舎運営マネジメント業務を11年間経験の後、地域企業にてCSR室を設立し室長に就任。2015年から京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)に所属するほか個人事務所を設立。プロジェクトの生態系や文化形成を大切にした、様々な企業や地域との関わりを広げている。一般社団法人こころ館「わたし研究室」の名付け親であり、かたい絆で結ばれたパートナー。


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