• こころ館研究員

ママ達がファシリテーターになった日


学校の保護者のお母さんたちが、ワークショップのファシリテーターになる。

これまでありそうでなかった「ママファシリテーター」の育成という、新たな取り組みに挑戦したのが、こころ館代表の松原です。彼女の勤務する京都教育大学附属京都小中学校(京小中)で、今年3月〜5月にかけて「ママファシリテーター養成講座」を実施し、12名のお母さんがファシリテーターとしてデビューすることになりました。

ワークショップの「ワ」の字も知らなかったお母さんたちが、ママファシリテーターになるまでの道のり。そこには、「お母さん」という立場を越えて、自分らしさを輝かせたママたちの姿がありました。

今回は、松原のサポートとして協力させていただいた「ママファシリテーター養成講座」、そしてお母さんたちがファシリテーターデビューした「実践活動協議会」の様子を、これまでの活動の軌跡とともにふり返ります!


学校に親のための学び場をつくる

京小中では、昨年度から新たな取り組みが始まっています。

それは保護者の学び場を学校につくること。

「学校をママ達のオープンな対話と学びの場にしたい」

そんな想いから始まったのが、マインドフルネスを取り入れた子育て講座「ママ朝カフェ」でした。講師を務めるのは松原です。


この講座で大切にしているのは”自分らしさ”。

普段、子どもや夫など家族中心の生活をするお母さんたちが、自分らしい子育て、自分らしく生きる子どもを育てることをめざして、まずは意識を「自分」に向ける練習からスタートです。

親である前に、自分はどんなことを感じて生きているのか?

子どもに対してどんなことを思っているのか?

子どもに「こうなってほしい」と理想を抱く自分って、何なんだろう?

このように、いまこの瞬間の自分の気持ちを意識して子どもと向き合う「マインドフルな子育て」を学ぶことで

「無意識のうちに思い通り子どもをコントロールしようとしていた自分に気づいた」

「子育てと家事ばかりの日々で、世の中から孤立していると思っていたけれど、実は私を助けてくれる友人や家族に恵まれていることを実感した」

「子どもがより愛おしくなった」「子どもと意見交換ができるようになった」

など、気持ちの面でも行動面でも変化していくお母さんたちが続出していきました。

ママ朝カフェが終了して1ヶ月が過ぎた頃、松原にある依頼が届きました。

5月27日に開催する近畿国立大学附属学校園PTA連合会の研修会「実践活動協議会(実活)」にて、マインドフルネスをテーマにした講演をお願いしたいというのです。マインドフルネスが世の中に認知される前からその実践を行ってきた松原ですが、それが今回の実活のテーマに挙がるまでになったと知って「時代が変わりつつある」と驚いていました。

そんな経緯があり、今回の実活のテーマは「しなやなか心を育むマインドフルネス」。以前同志社大学大学院にて松原がワークショップの理論を学んだ恩師の中野民夫先生(現・東京工業大学)とともに、マインドフルネスをテーマに講演を行います。



中野民夫

- 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

- ワークショップ企画プロデューサー

1957年東京生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業後、株式会社博報堂入社。89 年休職留学、91 年カリフォルニア統合学研究所(CIIS)の組織開発・変革学科修士課程修了。復職後は、人と人・自然・自分自身・社会をつなぎ直すワークショップや、参加型の場作りの技法であるファシリテーションの講座を多様な分野で実践。2005年、愛・地球博では、NPO/NGO が参加する地球市民村を事業受託側としてプロデュース。12 年、博報堂を早期退職。同志社大学教授を経て2015 年~現職。

主な著書に『ワークショップ』『ファシリテーション革命』(共に岩波書店)『みんなの楽しい修行』(春秋社)『えんたくん革命~1 枚のダンボールがファシリテーションと対話と世界を変える』(みくに出版)など多数。

ママファシリテーターへの道

しかし、依頼はそれだけではありませんでした。

「実践活動協議会の午後に分科会が予定されているのですが、その分科会のファシリテーターを保護者が務められるよう、育成してもらえませんか」

例年は先生方が進行を務めることの多い分科会を、今年は保護者がファシリテーターとなって運営したい。そのために、松原が講師となってファシリテーターを養成してもらえないかと相談を受けたのです。前例のない試み、かつ、準備期間は3ヶ月弱。限られた時間内に、ファシリテーター経験がほぼゼロの保護者を育て上げる必要があります。

そこで、松原はこんな提案をしました。

「ママ朝カフェのお母さんたちに、ファシリテーターになってもらうのはどうだろう?」

偶然にも今年の実践活動協議会のテーマはマインドフルネス。マインドフルな子育ての実践者であるお母さんたちは、今回のテーマにぴったりです。

こうして立ち上がったのが「ママファシリテーター養成講座」の企画でした。


当初は「5人ぐらい来てもらえたら十分かな・・・」と予想していたようですが、最終的には15名中12名のママ朝カフェメンバーが参加することになりました。「学んだことを活かしたい」「ママ朝カフェのみんなとまた一緒にがんばりたい」「ちょうど新しいことに挑戦したいと思っていたところです!」と想像以上のポジティブな反応に、松原も正直驚いたそうです。


初回の講座は3月。これまでの「ママ朝カフェ」とは異なり、今回はワークショップを提供するファシリテーターになることがゴールです。

分科会テーマの発案や台本作りなど、自分たちが主体となって準備を進めていかなければなりません。宿題もたくさん出ました。


慣れない作業に戸惑いながらも、必死で準備に取り組むお母さんたち。

子育てや仕事の合間を縫って、本番までひたすら練習を重ねました。

「普段子どもに”はやく宿題やりなさい!”と言ってきたけれど、いざ自分が宿題をもらってみて、先延ばしにしたくなる気持ちがよくわかった」

「企画を考えるなんて働いていた時以来。こんなに難しいことだとは・・・」

「子どもの方が先に台本を覚えて、一緒に練習してくれる」

そして皆さん口々に「大変だけど、充実している」と仰っていました。

ママ達がファシリテーターになった日

こうして迎えた当日は、近畿2府6県にある37の国立大学附属学校園から教職員・PTA関係者ら約250名が京小中に集結。


午前の全体会のなかでは、「自分らしさを育むためのマインドフルな子育て」と題して松原が講演を行いました。講演では、マインドフルネスと自分らしさの関係や、今ここの自分に意識を向けることの大切さ、そして「ママ朝カフェ」「ママファシリテーター養成講座」をはじめとするマインドフルネスを軸にした取り組みの実践報告を発表させていただきました。

講演の最後には、ママファシリテーターの本番までの軌跡をまとめたVTRを上映。ひたむきにがんばるお母さんたちの姿に、会場は共感と応援のムードで包まれていました。


松原の講演後は、中野民夫先生による基調講演「しなやかなこころを育むマインドフルネス入門」です。


マインドフルネスの「調身・調息・調心」を体験し、身体と心をほぐしていきます。


忙しい日々を過ごすお父さんお母さん、そして現場の先生たち。

自分の呼吸を感じるマインドフルネスで、立ち止まるひとときを味わいました。

ママファシリテーターの皆さんも、ゆっくりと呼吸を整えます。

この後いよいよ、分科会の本番です。

ランチ休憩をはさんだ午後、6つの教室それぞれに、先生方や保護者の皆さんが集まってきました。


時刻は午後1時。

「それでは時間になりましたので、分科会を始めます」


開始の第一声とともに、ママ達はファシリテーターになりました。


ファシリテーション中も、

ママファシリテーターは

人の前に立つ自分が何を感じているのか、会場と自分の両方に意識を向け、マインドフルな状態であることを心がけていきます。


各会場では、直径1mの円卓型段ボール「えんたくん」を囲んでの対話が行われていました。テーマである「マインドフルネス」を意識して、参加者の皆さんも自分の内側に意識を向けていきます。


対話型のワークに参加するのは初めてという方も多く、最初は緊張している様子もありましたが、ママファシリテーターを応援する気持ちで会場は次第に一体化。ワールドカフェのラウンドが進むにつれて、対話がどんどんヒートアップしていきました。

最初は話が途絶えがちだったグループも、最後は笑顔&時間が足りなくなるほどの大盛り上がりです。

とはいえ、順調にいくことばかりではありません。

途中パソコンの電源が落ちて、スライドが映らなくなるというハプニングに見舞われたチームがありました。慌ててコンセントを取りに走るスタッフ。復旧するまで進行が止まってしまう——会場の温度が下がるのは、避けられないかに思われました。

しかし、ママファシリテーターは動じません。

スライドがなくても、何事もなかったかのように堂々と進行をしてのけたのです。

彼女たちには覚悟がありました。

何があっても、必ず分科会をやり切ると。

そんなファシリテーターたちの姿に、会場はますます連帯感を増したのだとか。


気がつけば、あっという間に90分が経過していました。

分科会終了後、参加者の方からたくさんの感想がよせられたそうです。

「当事者意識の持てるテーマでとても考えさせられた」

「教員や保護者といった立場を超えて、対等な関係で意見交換できたのがよかった」

「自分の子育てをふり返るいい機会になった」

「イキイキした進行に驚いた」

「マインドフルネスを教育現場で取り入れていきたい」

ママファシリテーターたちのがんばりが、次の未来をつくることにつながったのかもしれません。


こうして今年の実践活動協議会も、盛会のうちに幕を閉じたのでした。

後日、あるママファシリテーターからこんな感想をもらいました。

「大人になるにつれて、

熱くなって何かに取り組む機会がほとんどなくなっていたように思います。

でも今回ファシリテーターに挑戦して、

本音で語って、本気で頑張る自分を出すことができて、

こういう機会を私は求めていたんだと気づきました。

素の自分を受けとめてくれたファシリテーター養成講座、そして仲間達との出会いに、

本当に感謝しています。」

私がママファシリテーターたちと出会ったのは、養成講座の初回です。

お母さんたちの表情には、新しい世界が始まることへの期待感と、これから何が自分に起こるんだろうか、という不安が入り交じっていました。人前で話すのは緊張する、という人なかにはいました。決して自信があるわけではない。それでも自分ができることをやりたい。そんな気持ちで練習に臨むお母さんたちのひたむきさに、いつも胸があつくなりました。

緊張しても、せりふを間違えても、最後まで精一杯やる。

覚悟を決めた本気のお母さんは、とてもかっこよかったです。

以前「自分のことが大嫌い」と言っていたあるお母さんは、今回ファシリテーターに挑戦してから「自分のことがちょっとだけ好きになった」のだそう。

ママファシリテーターへの道のりは、

自分を認めてあげられるようになるまでの道のりでもあったのかもしれません。


これからも皆さんが、自分らしく人生を楽しんでいけますように。

ママファシリテーターの皆さん、本当にお疲れ様でした!

(参考)当日の分科会テーマ



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