• こころ館研究員

わたしを研究した人は、まわりを幸せにしたくなる。働く女性「わたし研究室1期」総集編


はじめての「わたし研究室」は心がざわつく時間だった。

2017年7月から取り組んできたという、働く女性を対象とした「わたし研究室1期」。

かねてより、研究生たちのウワサは耳にしていた。

「研究生の変化度がすごい」

「表情が全然違う」

「毎回、パワーアップしていく」等々。

当時こころ館以外の場所で仕事をしていた私は、

そんな研究生たちの様子を耳にするたび、

へー、そうなんだ、盛り上がってるなぁ。

と遠巻きに見ていた。

すごいけど、まぁ自分とは関係ないかな、と思っていたのである。

学生時代の4年間をこころ館で過ごし、なまじっか「こころ館歴」が長かった私は、慢心していた。「もう自分のことはだいぶわかった」と思って、卒業と同時に探求をやめてしまったのである。しかしいざ社会に出て仕事一色の生活を送っているうちに、徐々に雲行きが怪しくなった。好きで入った会社なのに、何をしても満たされない。業務に追われ、消耗する日々。

気づいたときには、自分が何を感じているのか、もうよくわからなくなっていた。

「わたし研究室1期」の最終回が行われたのは、

自分を見失った私が会社をドロップアウトした1ヶ月後のことである。

バリバリ仕事がデキる、チャキチャキの女性たちが集まっていると聞いていたので、

仕事を辞めたばかりの私にとっては、少々気が引ける思いもあった。

でもタイミングが合ってしまったので、行くしかない。

私はおそるおそる「わたし研究室」に足を踏み入れた。

土曜の昼下がり、4時間にわたる講座は、始終穏やかな空気で満たされていた。

ここでは何を言っても受け止めてもらえる。

そんな安心感が漂うなかで、研究生たちがこれまでのわたし研究を口々にふり返っていく。

「何者かになりたい、と思ってがむしゃらに頑張ってきました。

 でももう、別の自分を探さなくていい。これが私なんだと気づいたんです」

「わたし研究が始まった頃は正直ついていけなかったけれど、

 今は自分の意志が出てきたように感じます」

「人からどう見られるか気にしていたわりには、自分のことを全然見れていなかったなって」

「自分のことが大嫌いでした。でもこれからは、自分を大切にしてあげたいと思います。人のことを大切にするために」

自分を直視した人の言葉は、守りがない。

研究生たちの飾らない言葉を聞くうちに、だんだんいたたまれない気持ちになっていく。

彼女たちの言葉や表情は、明らかに私とは違った。

迷いがないし、さわやかだし、自然体だし、一緒にいるこちらも居心地がいい。

傍から見ても「ああ、この人は自分らしく生きている感じがするなぁ」というオーラがある。

うらやましいなぁ、と思った。

同時に、彼女たちと自分の間に、歴然とした差を感じた。

もしかして、私がこれまで思ってきた「わたしらしさ」って、何か違ったのかもしれない。

自分のことは、それなりにわかっているつもりでいたけれど、それは大きな思い違いだった。

私も、もっとわたしが知りたい。

どうしたら分かるんだろう。

彼女たちは、どうやってその境地にたどり着いたんだろう。

感動の修了証書授与に立ち会いながら、

私は複雑な気持ちで「わたしらしさって何だろう」と答えのない自問を続けていたのだった。

あれから約1ヶ月半。

少し時間がかかってしまったけれど、

研究員たちが「わたしらしさ」を見つけた道のりを追体験するべく、

わたし研究室1期についてまとめてみることにした。

プログラムを通して、

研究生たちが何を思い、何を感じて9ヶ月間のわたし研究に取り組んだのか。

変化の軌跡が少しでも伝わったら嬉しいなぁと思う。


<STEP1> わたしを知る

わたし研究は、自分を知ることから始まる。

第1回〜第6回では、さまざまな角度から自分を観察。自分についての理解を深めた。

第1回:エゴグラムでわたし研究(2017.7.23)



「自分のことがよくわからない・・・」と不安げな表情の研究生たちのために、まずは「エゴグラム」を使って自己分析。心の状態をグラフで可視化し、客観的に自分を見た。最初は訝しげだった研究生も「たしかにそういうところあるかも」と納得の様子。

第2回:絵本『ひとつであるもの』ワーク(2017.8.19)


マインドフルネス絵本『ひとつであるもの』を使って、静かに心の動きを観察。内面に意識を向けると、自分の軸が見えてくる。普段忙しく働く研究生たちにとって、立ち止まる時間を持つことは新たな気づきを生むきっかけになったよう。

第3回:自分の回避型を知ろう(2017.9.24)




回避型とは”思考の逃げ癖”のこと。自分がハマりやすい回避型を把握し、どう向き合うかを考えた。研究生たちも「これもろに私やわぁ」「知っておいたら生きやすくなる」など大盛り上がり。自分の抱える課題にこそ、成長の種あり。

第4回:オープンセラピーワーク(2017.11.12)


セラピストの松原による、公開型セラピーワークの回。心の奥底にあった感情やコンプレックスなど、ずっと出せなかった感情を開示していく仲間の勇姿にふれ「やっと本当のあなたに出会えた気がします」と涙する人続出。研究生同士の一体感が出てきた。

第5回:コラージュワーク(2017.11.26)



アートセラピーの回。直感で制作したコラージュには無意識の願望が現れる。知らなかった自分の一面に「本当はこれに憧れていたんだ」と驚く研究生も。作品を通して相互理解も深まった。

第6回:家族との関係性と今のわたし(2017.12.26)


自分を知るフェーズも大詰めの第6回。幼い頃の家族との関係性をテーマに、今の自分はどんな風に形作られてきたのかをふり返る。家族や幼少期の自分について認識することは、自分世界観を揺るがす気づきにつながったりもするので面白い。

<STEP2> わたしを深める

自分についての知識を広げたあとは、深掘りのフェーズに入る。

第6回後から第7回では、「21日間プログラム」を通して観察とふり返りを何度も行い、自分への理解を深めていった。第8回では、ここまでのわたし研究で見えてきたことを応援者の前で発表する機会を得た。

第7回:21日間プログラム(2018.1.28)



自分を知るなかで見えてきた”今自分が向き合うべき課題”について、心の動きを観察し続ける「21日間プログラム」に取り組む。3週間意識を自分に向け続けた研究生たちからは「事実を見ることが意識できるようになった」「なんだか生きやすい」「まだ自分のことを好きになり切れていないことがわかった。けれど、そんな自分も受け入れてあげたい」などの感想が寄せられた。

第8回:わたし研究発表会(2018.2.3)



わたし研究室0期生の卒業式「わたし研究発表会」にて、研究の中間報告。これまでの変化やこれからのなりたい自分について語った。ありのままをさらけ出す1期生の発表に、あたたかい感動で包まれる会場。みなさんお疲れ様でした。

第9回:発表会のふり返り/絵本『母なる木』ワーク(2018.3.5)



発表会の感想を共有。「置き去りにしてきたいろんな気持ちを整理することができた」「実は人前で話すことが好きだと気づいた」など、それぞれ得るものがあった様子。後半はマインドフルネス絵本『母なる木』を使い、改めて意識を自分に向けることの意味を考えた。

<STEP3> わたしらしい生き方を見つける

自分がどんな人間で、何を感じ、何を求めているのか。

7ヶ月のわたし研究で少しずつ見えてきた、本来の自分。

最終回では、自分の内側から発信される想いをまとめ、これからのわたしらしい生き方(=研究テーマ)を発表した。

第10回:わたしの研究テーマを決めよう(2018.4.22)

ここからは、1期生たちがたどり着いた、実際の研究テーマを3つ紹介したい。

おうちマルシェで、人と人がつながる空間づくり(研究員:中村茂美)


もともと有名ブランドベビー服のパタンナーをしていた中村研究員。現在も自身でデザインした子ども服や小物を販売している。これまでは自分が可愛いと思うものを中心に制作活動を行ってきたが、わたし研究を始めてからは、買ってくださる方が喜ぶものがつくりたい、と意識に変化が起きたという。 講座に参加する前は、自分の思っていることがわからず、人に想いを伝えることが苦手だった中村研究員。自分の気持ちがわかりはじめた今は、ものづくりを通して”人とつながる”というテーマに挑戦したいと考えている。今後はおうちマルシェの主催を通じて、ものづくりの楽しさを伝え、人がつながる空間づりを企画していく。

成長し合えるチームをつくる、共感型リーダーシップ(研究員:森田直美)


講座を受ける前は、仕事に対する自信を失っていたという森田研究員。自分のことは誰にもわかってもらえない、人と話すのが怖い、と葛藤を続けていた。ある時わたし研究で「仕事を面白くなくしている原因は、自分かもしれない」と気づいてから、自分が変わることを選択。職場での人間関係を克服し、今は仕事がとても楽しいと語る。

 そんな彼女の研究テーマは「成長し合えるチームをつくる、共感型リーダーシップ」を発揮すること。「どこまで行っても仕事が好き」と語る森田さんらしく、仕事を通して自分らしい生き方を体現することに決めた。仲間を巻き込みながら、一緒に働くメンバーひとりひとりがやりたいことを実現できるような環境をつくっていきたいと考えている。

共に働く仲間の潜在能力が引き出される職場づくり(研究員:松元美抄)


わたし研究を始める前は、あらゆる場面でモヤモヤを抱いていた松元研究員。講座が始まってからもモヤモヤが晴れない期間が続いていた。しかしある時「この煮え切らない状態を引き起こしているのは・・・もしかして私・・・?」と視座の転換が起きたことで、意識が一変。自分をわかってほしいという姿勢から、相手の立場を考えて理解しようという気持ちが生まれてきたと言う。

 彼女が掲げる研究テーマは「共に働く仲間の潜在能力が引き出される職場づくり」。京都市内の一流ホテルにて、お客様対応のプロフェッショナルとして活躍してきた松元研究員。これからは共に働く仲間達と仕事の意義を分かち合いながら、それぞれがもつ潜在能力を引き出せるような環境づくりに取り組みたいと語る。

1期生たちの研究テーマには共通点がある。

それは、すべてのテーマに「人」の存在があること。

わたしを研究したにも関わらず、行き着く先はまわりの人の幸せなのだ。

彼女たちの関心は、もはや自分にとどまらない。

職場の同僚、部下、仲間、家族、お客様・・・

周囲の幸せを実現すること、それが自分自身の喜びに直結している。

自分を知って、自分とつながった人たちは、それ以上自分を満たす必要がないのかもしれない。

そして自然と、人や社会の幸せに目を向けられるようになるのかもしれない。

不思議だけれど、他のわたし研究室でも同じような現象が起きている。

最後に、研究生たちに「わたし研究室」を通して明らかに自分が変わったと思うことを聞いてみた。

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・自分が得意なこと、好きなこと、嫌なこと、苦手なことを整理することができた。

・自分が執着していたこと(例えば子どもを産むことができなかったこと)を自分で認められてすっきりしている。

・周りと自分を比べなくなった。

・周囲よりも、自分がどう思うかをまず考えるようになった。

・表面的な優しさだけを出して、優しい人と思われる人を演じるのをやめて、自分の中にあるいろいろな感情(ポジティブもネガティブも)に向き合い複雑な自分を認め受け入れることで「〜しなければ」が少なくなった。

・親や周りへの感謝の気持ちが持てるようになった。

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一部の回答だが、これだけでもかなり変化があった様子がうかがえる。

自分の変化を認識して描写することができるのも、わたし研究した人たちの特徴かもしれない。

こうして「わたし研究室1期」のすべてのプログラムが終わった。


修了証を授与された研究生たちは、晴れて「わたし研究員」となる。

彼女たちはこれからも、研究員として、共に研究を進める仲間になっていく。

わたし研究室を見て感じたこと。

それは自分とつながった人のしなやかな強さだ。

自分らしく生きるというのは、覚悟のいることだと思う。

ぶれない自分の軸がなければ、すぐに揺らいで、誰かが決めた人生や規範に頼りたくなる。

わたしを研究することは、自分らしく生きる覚悟を決めるための道のりでもあるのかもしれない。

そんな研究員たちの生き方を、私はこれからも追い続けていきたいと思う。

そしていずれは、彼女たちのように、自分だけの”わたしらしさ”を手に入れたいと思っている。

1期生のみなさん、お疲れ様でした。



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